どうして教えたらいいの





どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
軍国主義一色に塗りつぶされていた
私たちの少年時代。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
男の子はみんな兵士になり
戦場に行かねばならなかった
私たちの青春時代。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
隠微な暴力とリンチが支配する軍隊で
私たちがいかに人間性を奪われていったか。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
軍服に身を固め小銃と弾薬を持って
輸送船に揺られていた
私たちの心のたかぶり。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
私たちが中国人をチャンコロと蔑視し
面白半分に首をはねたり
銃剣で突き刺したりしたこと。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
射殺された勇敢な抗日ゲリラの中には
花嫁となる年頃の娘が幾人もまじっていたこと。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
中国軍の砲弾に肉体を引き裂かれた
多くの戦友のむごたらしい最期。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
自分たちは東京の最も安全なところに身をおいて
前線の部隊を将棋の駒のように操っていた
大本営というものがあったこと。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
私たちがどんなに中国大陸を荒し回っても
犠牲者がどんなに増えても
ついに中国人は屈服しなかった。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
日本の降伏で戦争が終ったとき
前線にいた私たち兵士は
これで命が助かったと大喜びしたこと
内地に帰れると胸はずませたこと。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
「恨みに報いるに暴をもってするなかれ」といって
私たち日本兵の武装解除をした上で
無事祖国に帰れるようにしてくれた中国人のこと。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
私たちを乗せた復員船が日本の港に近付いた時
藁葺きの家の庭でひるがえる
赤ちゃんのお襁褓をみて
私たちが五体を震わせて泣いたこと。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
日本に帰った私たちは無造作に軍服をぬぎすてたが
中国人の血で汚れた手をろくに洗いもせず
なに喰わぬ顔で職場に復帰したこと。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
戦後ながらく続いた平和と繁栄の中で
いつしか戦争の記憶が薄れ
不戦の誓いまで風化してしまったこと。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
戦争の全体像を知ることは
従軍体験者といえども難しく
まして今の若者が理解するには
かなりの労力と時間がいること。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
戦争に駆り立てられた時の私たちは
やはり戦争について
ひどい無知だったということ。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
戦争はかならず
平和の名のもとに行われることを
日中戦争も「東洋平和のために」というスローガンで
始められた。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
もしも戦争が起こったら
たとえ非国民と罵られようとも
最後まで生き延びるにしくはなく
戦争で死ぬことほど馬鹿らしいことはない。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
あなた方が将来産むかも知れない男の子を
絶対に戦場に送らないこと
私たち元・日本軍兵士の母のように
戦死した息子の遺骨を抱いて泣き伏しても
もう遅いということ。

どうして教えたらいいの
戦争を全然知らない女子大生に
戦争の話をすればするほど
深い自己嫌悪におちいってしまう
私たち元・日本軍兵士の心の襞を。


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