美しく老いる



奈良は東大寺二月堂の眺めのいい回廊に立ち
眼下に豪壮な大仏殿を見おろしながら
ふと、美しく老いるとつぶやいてみた。
だが「美しい」という言葉自体が
こんな言いまわしを耳にしたら
たちまち赤面して逃げ出してしまうだろう。


けれど、夕陽に輝く金色の鴟尾をのせた
あの雄大な屋根の下におわします毘盧遮那仏は
千年の昔のやさしいお姿のままで
なまめかしく老いたまうではないか。
それに先の戦争で死んだ若者や乙女たちも
もはや誰にもかえりみられることなく
ただ、ゆかりの人の胸深くひっそりと住みながら
いつまでも花の顔のままでいるではないか。


ああ、寒々と暮れなずむ境内の空高く
ここを先途と切ない声で鳴き渡るカラスの群れよ
ほの暗い森のねぐらに急ぐ子連れの鹿よ
お前たちもまた美しく老いるつもりなのか。



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