かわいい天皇





「天皇ッテサ、ナンカ、カワイインダヨネ」
重態におちいった天皇の身を案じて
皇居前の記帳所につめかけた
人々の列の中に
こんなことを
あどけない口調で言ってのける
制服の少女がいたという。

娘さんよ
かわいいのは天皇じゃなくて
おまえさんじゃないのかい
なんて憎まれ口を
たたくのはよそう。

いつの時代にも
かわいい娘さんというのはいた
可愛いままで
おばあちゃんになってしまう
女だって大勢いた。

東京のど真ん中
野鳥の声がかまびすしい
広大な森の宮殿で
「雨は続いているが、稲の方はどうかね」などと
うわごとを言いながら
死の床で
昏々と眠っている
八十七歳の
かわいい昭和天皇。


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