風もないのに





風もないのに
どうして満山の桜
狂ったように散るのでしょう
木を見上げる二人が世に容れられぬ
恋をしているのです。

風もないのに
どうして山の中の小さな湖
三角波がたつのでしょう
湖を巡る二人が世にも悲しい
相談をしているのです。

風もないのに
どうして三角屋根の上の電線
切なく震えて泣くのでしょう
古いホテルに泊まった二人
ここを先途と愛し合っているのです。

風もないのに
どうして火葬場から立ちのぼるピンクの煙
切なく乱れて散るのでしょう
世に容れられぬ恋をした
二人の屍を焼いているのです。

井上俊夫詩集『従軍慰安婦だったあなたへ』全編目次へ戻る

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