名も知れぬ大きな罪





評判にたがわぬ映画がおわり
ラストのクレジットタイトルの横文字が延々と流れ
名残のテーマミュージックもせつなく流れている
だが誰一人として席を立つ者なし。
観客のマナーが特別にいいからではないのだ
みんな感動で胸がいっぱいなのだ
ハンカチを眼にあてている人が何人もいる。
今だ!
素晴らしい映画を見せてくれた監督と俳優と
そしてこの小さな映画館のために
鳴りやまぬ拍手を送るのは!
こう思いながら
私は恥かしくて手をたたけない
誰か手をたたいてくれたらいいのに
頼むから誰か手をたたいてくれよ
だが、誰も手をたたくものなし。
このままでは黙って席を立つしかない
おお、黙ったまま映画館を出るしかないぞ。
こんな物凄い映画をみながら
ぬすっとねこ
盗人猫のように
黙ったまま席を立ち
黙ったまま映画館を出るなんて
おいおい、みんな
おれたちはたった今
名も知れぬ大きな罪を犯している!


井上俊夫詩集『従軍慰安婦だったあなたへ』全編目次へ戻る

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