そんなに綺麗になって





小さな秘密をもつようになってから
きみの肩先は不意にやさしくなった。

人知れず涙するようになってから
きみの桃色の指は一層しなやかに動く。

遠い旅を想うようになってから
きみは鍔の広い帽子がよく似合う。

長い物語をむさぼり読むようになってから
きみの髪はいよいよ長くいよいよ黒く。

そんなに綺麗になって
ほんと、そんなに美しくなって
きみは怖くないのかい。

かたちのいい唇をかたくとざし
すんなりとのびた脚で
風の中
かすかに揺れる乳色の橋を渡って
いずこへ
きみ。


井上俊夫詩集『従軍慰安婦だったあなたへ』全編目次へ戻る

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