淀の岸辺で





おれたちは淀の岸辺に佇みながら
しみじみと水の流れをながめていた
だが、ほんとは
河がしみじみと
おれたちの翳りある顔を
眺めていたのだ。

おれたちは淀の流れのまにまに漂う
二本の枯れ葦をじいっと見詰めていた
だが、ほんとは
寄り添いながら漂う葦が
寄り添ながら佇むおれたちの姿を
じいっと見詰めていたのだ。

おれたちは淀の流れにむかって
石を出来るだけ遠くへ投げてみた
だが、ほんとは
河が俺たちにむかって遠くから
熱く焼けた二個の石を投げてよこしたのだ。

おれたちは淀の流れをひたすら遡る
小さな船にむかって手を振ってみせた
だが、ほんとは
河は船がないと淋しいので
赤いまぼろしの船を浮かべていたのだ。

おれたちは淀の流れに向かって
いつまでも一緒にいようと囁きあった
だが、ほんとは
河がそうするより仕方がないねと
つぶやきながら流れていたのだ。

井上俊夫詩集『従軍慰安婦だったあなたへ』全編目次へ戻る


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